夏季の幻
一面に咲き誇る向日葵の黄色が眩しくて
蒼すぎる空が遠すぎて
わたしは、ただふぃくしょんの物語を聞いていた。
錆びた列車が熱くなっている。
これは、熱に焦がされる物語だ。
かつて、ここは地方都市パルクの有名な観光地だった。夏は四十度を超える熱波のなかで子供たちや婦人たちがアイスを食べた。
あの大戦争、第三次大戦で放棄され、今では向日葵畑に呑み込まれている。
ロンディバルオオカミの娘ベルは、ジュラルド・ヴァンダルの妻となり、今人目をはばかり、こうして観光にきている。
「ベル、アイスを食べよう」
ベルはジュラルドの顔をみた。あどけなく無表情ながら信頼しきった様子だった。
二人は向日葵畑を眺めながらアイスを食べる。
「まるで幻のようだ。ここには人が住んでいない。そんな場所なのに俺は命の息吹を感じる。ベル……ベルは暑いの苦手だったな。夏は危険だ。命の色が濃くなりすぎる」
ベルは、尻尾を振って、遠くを眺めていた。
秘密の夏は、甘い幻。
それすらも作り話(フィクション)なのだろうか。かつての街の話もそうだとしたら、その物語もそうならば、それでもいい、とジュラルドは空を見上げた。
風は髪をなびかせる。