ろりばばあ
雪の積もった峰々の麓に、名前のない獣の娘が暮らしていた。
おびただしい金と銀の輝き、静寂な夜に、ずっとむかしからそうしてきたように、お酒を飲んでみあげる少女。
とてもひとが暮らせるようなところではなく、少女は、いつからそうだったのだろうか、一匹だけだった。
そうにちがいないわ、わたしは、この生き方を、自分で選んだのよ。
ただ、そう考えれば、考えるほどに、誰か、名前をつけてくれる人がいれば、と虚しくなる。
煉瓦の酒蔵には、ワインにブランデーと、お酒に困らない。
きこえてくるのは、賑やかな声たち。
どうしてこの地からかれらがきえてしまったのか、わからない、少女には、いつからいなくなったかさえ、わからなかった。
春になり、暖かくなれば、草や木が背を競い合い、鳥や獣たちが姿をみせる。この地が育んできた秩序だった。
ある時期、ここは街であった。
少女は、今もこの地で、暮らしている。
【ろりばばあ】了